小泉首相「謝罪」演説・・道義無く、戦略性無く
2005年 04月 23日

☆日中首脳午後に会談
AA会議首相演説、村山談話踏襲し謝罪
小泉純一郎首相と胡錦濤国家主席との日中首脳会談は、
二十三日午後(日本時間同)に
ジャカルタ市内で行われることが決まった。
首相としてはこの会談を
両国関係改善の糸口にしたい考えだが、
好転するかは不透明だ。
首相は二十二日、
ジャカルタで開幕したアジア・アフリカ首脳会議で演説し、
平成七年の「村山談話」を踏襲する形で
過去への反省と謝罪を表明した。
国際会議での表明は異例ともいえる対応だ。
首脳会談の開催は、
二十二日夜までの両国政府の調整で決まった。
会談は昨年十一月以来となる。
この日首相は、同行記者団と懇談し、
首脳会談への対応について
「敵対からは何も生まれない。
友好こそが、両国にとって
最も大事だという観点から会談を進めていきたい。
(反日デモによる謝罪や補償には)触れるかもしれないが、
外相会談と首脳会談は違う。
同じことをやったら意味はない」と述べ、
中国側に謝罪、補償を求めることに
固執しない考えを示した。
一方、演説で首相は、
「わが国は、かつて植民地支配と侵略によって、
多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して
多大の損害と苦痛を与えた。
こうした歴史の事実を謙虚に受け止め、
痛切なる反省と心からのおわびの気持ちを常に心に刻む」とし、
「村山談話」と同じ表現で
過去への反省と謝罪の意を表明した。
(産経新聞)
この首相の演説ですが
評価が二分しています。
私の結論から言いますと
首相の演説は愚かとしかいいようがないと思います。
以下、
◇道義論の観点
◇戦略論・効果論の観点
この2つの観点から書きます。
<道義論の観点>
今回の首相の演説は
首相サイドがいくら否定しようとも
中国の反日暴動を
念頭においてることは間違いないでしょう。
日本国民もそう見ますし、全世界もそう見る。
当の中国政府や中国人もそう見る。
首相演説を評価する人たちの論法は
首相が謝罪を表明することによって
中国の「日本は謝罪していない」という、
論拠を封じることができる。
という点だと思います。
要するに戦略論・効果論としての評価です。
しかし、総理大臣というものは
外交ゲームのプレーヤーとしてだけではなく、
日本国の代表としての立場があります。
戦略論や効果論以前に
国家の原則や主権、
そして道義的な部分においても責任を負う立場です。
この演説に至る一連の流れを書きますと、
中国の反日暴動
↓
暴徒から「日本は謝罪せよ」との要求
↓
暴徒が大使館や領事館、在中日本人などに危害
↓
中国政府は謝罪せず、国家として補償もせず。
↓
小泉首相の謝罪演説
図式として表せば一目瞭然ですが
これは単なる自虐です。
気概やプライド以前の問題です。
この首相の演説を世界各国や中国は
間違いなく、上記図式のように捉えるでしょう。
即ち、日本国首相は中国暴徒の要求に屈したと。
その暴徒を煽ったであろう中国政府の外交的勝利であると。
中国政府から見れば、これは日本の屈服です。
日本の全面降伏です。
さんざんいいように暴徒が騒ぎ、
大使館や邦人に乱暴狼藉を働き、
自らは全く謝罪もせず、
向こうから頭を下げてきたわけです。
これが愚かと言わずなんでしょうか。
日本の国益を損ねている日本の外交イメージに
「こちらが強いことを言えば
日本はすぐに叩頭する」
こういうものがあります。
今回の小泉演説はこのイメージを増幅させただけです。
また「過去への謝罪」と言いますが、
前大戦の全てを謝罪するつもりでしょうか?
戦前の日本の営為を全て謝罪するつもりでしょうか?
私は日本の過去を全て美化するつもりもありませんが、
全てを暗黒の如く否定するつもりもありません。
世界史という大きな観点から見れば
過去数百年、全世界に拡大しつつあった、
白人勢力優位の流れを、
日本が日露戦争と前大戦で断ち切ったことは
否定できない事実だと思います。
それは他ならぬアジア諸国のかつての指導者達が
繰り返し表明してきたことです。
この小泉演説の舞台となったアジア・アフリカ首脳会議。
第一回目は1955年4月に
インドネシアのバンドンで開催されました。
当時、アジア・アフリカにおいて
多くの国々が欧米列強から独立を勝ち取りつつあり、
その熱狂がこの会議にも溢れていました。
この時の参加国は
中国・インド・インドネシア・エジプト、
そして日本などによる29ヶ国。
日本は当時は鳩山内閣の時代で
いまだ敗戦の貧しさを引きずっていた時代です。
日本の代表団は
この会議において拍手喝采をもって迎えられました。
各国の指導者達は、
このアジア・アフリカ諸国の独立の動きが
日露戦争、そして前大戦における日本の戦いが
きっかけであることを熟知していました。
会議の開催国インドネシアにおいても
日本の代表団は大歓迎を受けました。
インドネシアは、18万人の英蘭連合軍と、
4年間にわたる戦争を戦い、
独立を勝ち取ったばかりです。
彼らはこの勝利のかげに
前大戦において日本がオランダ軍を追い払い、
インドネシア人を訓練して義勇軍を組織したことが
独立につながったことを知っています。
さらに日本兵2千人が敗戦後も祖国に戻らず、
インドネシアの独立のために共に戦い、
そのうちの半数が戦死したことを知っています。
この最初のアジア・アフリカ首脳会議から
ちょうど50年が経過し、
初回と同じインドネシアの地において日本の小泉首相は
「わが国は、かつて植民地支配と侵略によって、
多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して
多大の損害と苦痛を与えた。」
と述べました。
私はこの演説に到底納得することができません。
反日暴動が始まった頃、
中国の温家宝首相は
「日本の国連安保理入りに反対するデモを受けて、
日本政府は深く反省するべきだ」
「日中関係の核心的な問題は、
日本が正確に歴史問題を処理するかどうかということだ。
日本の侵略戦争は中国だけでなく、
アジア各国ひいては全世界の人々に多大な苦難をもたらした」
と言いました。
*【中国】温家宝:反日デモ
「日本政府は深く反省するべき」
自らの国の国民暴動を謝罪することなく
平然と他国に責任を転嫁したわけですが、
小泉演説はそれを肯定したに等しい。
国家の道義はどこにいったのか?
他国の暴徒が謝罪を要求し、
一国の施政者がそれに対して謝罪する。
他国の横暴に易々と屈し、謝罪を口にする。
この人物の軽々しさは
一国の宰相としての資質を欠いています。
<戦略論・効果論の観点>
先に、首相を擁護する人たちの論法を書きました。
首相が謝罪を表明することによって
中国の「日本は謝罪していない」という、
論拠を封じることができる。
この論法に関して
戦略論・効果論の観点から書きます。
まず、結論から言うならば、
国家の原則や道義の観点を外して、
単なる実利性のみで考えても、
この小泉発言はマイナスです。
今回の反日暴動に関して
私は何度も触れてきましたが、
◇反日暴動は容易に反体制暴動に転化する。
◇中国の反体制運動家はこの暴動を
体制を倒すエネルギーとして利用しようとするだろう。
◇中国政府もその機敏はよく理解しており、
反日暴動がこれ以上拡大すれば、
自分の首をしめかねないとの危機感を持っている。
この観点が重要だと思っています。
日本は中国に対して有利な位置を占めつつありました。
即ち、日本が国家原則と主権の維持に関して
謝罪などを拒否し、正論を述べれば述べるほど、
反日暴動は燃えさかるわけで、
中国政府は窮地に追い込まれます。
その意味において、日本は中国に対して
有利なカードを得つつあったわけです。
日本が正論を述べて暴動を煽れば煽るほど
中国政府は日本に妥協を求めるしかありません。
また、対中戦略の一環として
かの国を潜在的な仮想敵と捉えるならば
暴動と秩序混乱による、
中国弱体化のチャンスであったわけです。
ところが、小泉演説はこの進行に
水をさしてしまいました。
せっかく、全てが日本有利に運びつつあるのに、
何故、謝罪?
理解に苦しみます。
もし、これで反日運動家たちが、
首相の謝罪発言によって
反日運動の大義名分を失い、
群衆を糾合する論拠を無くして、
運動そのものがしぼんでいくならば、
誰がいったい利益をえると思いますか?
それは中国政府です。
日本の首相から謝罪発言を引き出し、
反日暴動を押さえ込み、
自らのメンツは保たれるわけです。
まあ、もっとも私は、
反日暴動は数ヶ月から数年を経て
暫時拡大していくと読んでいます。
首相発言による沈静化と中国政府による押さえ込み以上に、
民衆側のエネルギー、反体制側のエネルギーの方が
上回ると見ています。
ただし、短期的には
事態の終息化を首相演説はもたらすわけで、
この戦略的なセンスの無さは呆れるばかりです。
よって首相擁護派の論拠、
即ち、
首相が謝罪を表明することによって
中国の「日本は謝罪していない」という、
論拠を封じることができる。
こんなものは意味がありません。
封じてどうするんでしょうか?
封じて議論に勝って喜ぶわけですか?
「君は僕が謝罪してないといってるけど
ちゃんと謝罪してるじゃないか」
「・・・・」
で、どうするんでしょうか?
子供のディベート合戦ですか?
おそらく首相の狙いは、
◇事態の沈静化
◇世界に日本がちゃんと謝罪していることを
印象づける
この2つの意図があったと思います。
確かにもくろみどうりでしょうね。
効果は大きいでしょう。
ただ、そうなったところで何の意味があるのか?
対中進出に血道をあげている財界人は喜ぶでしょう。
国内の媚中派も喜びます。
首相が熱心な「東アジア共同体構想」の
賛同者達も喜びます。
ただ、それは日本の国益には合致しません。
隣国の怪物を肥え太らせ、
これと妥協する道は日本の破滅につながるでしょう。
以上、道義論と戦略論の両面で書きました。
今夜、小泉首相と胡錦涛主席の首脳会談があるそうです。
願わくば首相が、
余計なことを口走りませんように。
最初から最後まで黙っていてほしいものです。
*アジア・アフリカ首脳会議における小泉総理大臣スピーチ
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