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by misaki80sw

ジェンダーフリー考 その3・・保守の油断(前編)

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平成11年6月、
男女共同参画基本法が国会にて満場一致で可決された。

当時は「政治改革」の嵐が吹き荒れ、
自民党の一党支配は崩れ、
細川連立政権から村山内閣、
そして橋本、小渕内閣を経て、
左傾化された法案が次々と提出された。

外国人参政権法案、人権擁護法案、
そして、この男女共同参画基本法案。
外国人参政権法案は
喧喧諤諤の議論の上、継続審議となり、
人権擁護法案は一旦は廃案になったものの
また復活し、今は大激論の真っ最中。
しかし、男女共同参画基本法案はすんなりと可決された。
ここが全ての始まりだった。

この流れの元となったのは
国連の「女子差別撤廃条約」。
第34回国連総会において採択され、1981年に発効。
日本は、1985年に批准した。

これの第一条。

 「女子に対する差別」とは、
 性に基づく区別、排除又は制限であつて、
 
そして第二条。

 「締約国は、女子に対するあらゆる形態の差別を非難し、
 女子に対する差別を撤廃する政策を
 すべての適当な手段により、
 かつ、遅滞なく追求することに合意し,、
 及びこのため次のことを約束する」

 「男女の平等の原則が自国の憲法その他の
 適当な法令に組み入れられていない場合にはこれを定め、
 かつ、男女の平等の原則の実際的な実現を
 法律その他の適当な手段により確保すること」

 「女子に対するすべての差別を禁止する、
 適当な立法その他の措置(適当な場合には制裁を含む)
 をとること」

 「女子に対する差別となる既存の法律、
 規則、慣習及び慣行を修正し
 又は廃止するための
 すべての適当な措置(立法を含む)をとること」


女子に対する差別とは、
「性に基づく区別」と明確に書いてある。
要するにジェンダーフリーの発想そのもの。

この「差別」を撤廃させ、
男女の平等を推進する法律を制定せよとのこと。
この条約を批准する際に
「日本の国情にそぐわない」との意見もあったが、
賛成派は「他の先進国が批准してるから」
との理由で押し切ってしまった。

実際には、米国などは
この条約のジェンダーフリーに対する入れ込みを警戒して
いまだ批准していない。
米国の場合、60~70年代の
フェミニズムの全盛と性の放縦に対する反省から、
ここ十年ほどは「家庭の健全化」「道徳教育」が
大きな流れとなっているからね。

そして平成7年、
北京で「第四回世界女性会議」が開かれ、
日本も代表団を派遣したが、
その「お土産」として、
総理府の中に「男女共同参画室」が作られ、
その本部を各省次官級から閣僚級に格上げした。

この総理府内に設置された「参画室」は、
その後の体制内へのジェンダーフリー思想の浸透の
拠点となっていく。

平成8年6月、羽田政権の末期。
首相の諮問機関である男女共同参画審議会が設立された。
後に、この審議会によって
男女共同参画基本法の原案が作成された。

前回の「尻尾のない狐」でも書いたように
男女共同参画基本法の作成を実質的にリードしたのが
ジェンダーフリー論者の東大教授、大沢真理氏。
彼女は、この審議会に途中から参加し、
並み居る官僚どもの鼻面を引き回し、
己の思想を、この法案へと結実させてしまった。

翌7月、同審議会は
「男女共同参画ビジョン」を提出。
これは今後の男女共同参画社会への
道筋・グランドデザインを描いた答申。

この中に、

  この答申は女性と男性が
  社会的・文化的に形成された、
  性別(ジェンダー)に縛られず、
  各人の個性に基づいて共同参画する社会の
  実現を目指すものである」

と書かれてある。

これは政府文書の中に
「ジェンダー」という言葉が記載された最初の例。

ここらへんの男女共同参画法制定に至る過程は、
ジェンダーフリーの論客、上野千鶴子氏の対談集、
「ラディカルに語れば」に詳しく書いてある。

この中で大沢真理氏は上野氏を相手に
法案成立に至る舞台裏を得々と語っている。

以下、引用する。


 大沢 私も絶えず戦略的に行動していますから、
    ジェンダーについて説明し、
    議論する時には二段階に分けて、
    最初の一段階のところで理解してもらえば、
    まあそれで良しとしました。
    そこは使い分けをしています。

    生物学的な性差は、セックスだけど、
    それとは一応区別される、
    ありとあらゆる文化や社会が作りだした、
    男らしさや女らしさの通念、
    つまり男女を区分している線。
    これは人工的に作りだされたものだから、
    人の意識的な営みによって崩していくことができる。
    これが第一段階ですよね。 
 
    ここまでは、かなりの人が、
    そうだねと言うわけですけれど、
    二段階目というのは、セックスが基礎で
    その上にジェンダーがあるのではなくて、
    ジェンダーがまずあって、
    それがあいまいなセックスにまで
    二分法で規定的な力を与えているけれど
    本当はあなたのセックスはわかりません、
    ということです。
    
    女で妊娠したことのある人だったら
    メスだといえるかもしれないけれども、
    私などは妊娠したことがないから、
    自分がメスだと言い切る自信はないし、
    男にとっては、
    あなたの子供を生んだことになっている女の人しか、
    あなたのセックスについて断言できません、
    こう言ったら、もう男は立つ瀬がないというか。

 上野 そういう戦略をとったのは賢いやりかたですね。
    「(男女共同参画)ビジョン」には
    男女の特性にしたがった対等な取り扱いではなくて、
    最終的には
    ジェンダーの解消をめざすと書かれています。
    これは画期的なことだと思いますが、
    これについて合意が形成されたとは、
    これもにわかには信じがたい。
    おいおい、本気かよ?という感じです(笑)


大沢真理氏が
戦略的に言葉を使い分けているのがよく分かる。
ちょっと悔しい内容だね。


 上野 (審議会での)合意形成はすんなりいきました?

 大沢 反論らしきものはほとんど出なくて
     反論するにはやはりそれなりの論理を
     準備しなければならない。
     それだけの論理のある人は、
     そう言っちゃあなんですが
     いなかったということですね(笑)。

 上野 審議会って、そんなに簡単に論理が勝つの?
     ホントかなあ。

 大沢 ここは特殊な審議会なんです。
     事務局が引き回したくても、
     その素養がないんです。
     大学で女性学を学んでませんし。
     ジェンダーという発想はまったくないわけで
     結局、委員(大沢氏)が発言し、
     自分の発言したことを起草して、
     文章を作っていくという、
     稀に見る審議会だったわけです。

 上野 たまたま論理不在のところに
     強力な論理が登場したことによって、
     それが席巻してしまったと。
     その際に、大沢真理という専門家が
     画期的な役割を果たしたということですね。
    

大沢氏が官僚達を論破し、
終始、議論をリードした様子が想像できる。

「人間とは何か?」「男女とは何か?」
この種の哲学的命題とは無縁の試験秀才の役人たちは、
大沢真理の論理体系に苦も無く打ち砕かれてしまった。

さらに彼女は得々と語る。


 大沢 「ビジョン」の特徴と意義を解説した私の論文を
     参画室の事務局で、
     「ビジョン」起草に関わった男性のお役人が
     立ったまま読み始めて
     そのままとうとう終わりまで読んでしまった。
     そして最後に「こういうことだったのか」って
     言ったそうです(笑)。

 上野 今のエピソードは実に典型的ですね。
     つまり、納得しながら進めたんじゃなくて
     あれよあれよという間に大沢委員に寄り切られて、
     ふりかえったら、
     「そんなことやってしまったボクちゃん」(笑)と
     いうことなんでしょうか。


1996年10月、第二次橋本内閣成立。
与党自民党に対して
新党さきがけと社民党が閣外協力した。

この時の三党合意事項に基づいて
平成11年6月、審議会作成の原案をもとに
「男女共同参画基本法」は策定された。

全てはもう遅かった。
法案は国会に回され、
これまた無自覚な自民党議員たちは
大した議論もせぬまま、これに賛成してしまった。

同時期の村山内閣の「戦後50年の国会謝罪決議」。
前大戦を反省し、アジア諸国に対し、
謝罪をするという国会決議だったが、
この時、自民党議員70名と新進党議員全てが
欠席する中で採択されるという異例の事態となった。
この警戒感と緊張感に比べ、
男女共同参画法はあまりにも無警戒で通してしまった。

彼らには、この法案の秘められた言葉の意味など
まるで理解できなかったんだろうね。

その第二条、「男女共同参画社会の形成」。

 社会の対等の構成員として
 自らの意志によって社会のあらゆる分野における活動に
 参画する機会が確保され、
 もって男女が均等に政治的・経済的・社会的及び
 文化的に利益を享受することができ、
 かつ共に責任を担うべき社会を形成してることを言う

まあ、悪い法律の典型で
何が言いたいのかハッキリしないし、
言葉の定義が明確でない。

問題なのは「利益を享受することができ」の文言。
男女が均等に政治的等々の利益を享受する社会?
これは結果平等の発想でしょう。
自由主義社会のエッセンス「機会の平等」に反する内容。
発想が統制主義だね。

さらに第四条、
「社会における制度又は慣行についての配慮」。

 男女共同参画社会の形成に当たっては、
 社会における制度又は慣行が、
 性別による固定的な役割分担等を反映して、
 男女の社会における活動の選択に対して
 中立でない影響を及ぼすことにより、
 男女共同参画社会の形成を
 阻害する要因となるおそれがあることにかんがみ、
 社会における制度又は慣行が
 男女の社会における活動の選択に対して及ぼす影響を
 できる限り中立なものとするように
 配慮されなければならない。

何が言いたい?
法律って小難しいものだけど、
この悪文は度を超している。
まとめた役人自身が
法の趣旨をよく分かってないんでしょう。

 「社会における制度又は慣行が、
 性別による固定的な役割分担等を反映して」

 「中立でない影響を及ぼすことにより」

つまり、制度や慣行が
男女の固定的な役割分担を守ってしまっているから
それに従うのは良くないという意味。
これぞジェンダーフリーのエッセンス。
大沢真理の信奉するデルフィの論理そのもの。
自民党議員には、こういう思想が存在すること自体が
想像すらできなかっただろうね。

 「できる限り中立なものとするように
 配慮されなければならない。」

配慮?
政府も自治体も「配慮」しろということだが、
じゃあ、どう配慮するのか?
何も具体的に書かれてない。
現在、大議論が起きている「人権擁護法」と同じで、
拡大解釈はいくらでも可能。
解釈するのは、この法の現在の元締めである、
「男女共同参画会議」なんでしょうね。


かくて法律は制定された。
全国のジェンダーフリー論者は喝采をあげ、
彼女らの時代の到来を喜んだ。
性差の無い究極の平等社会の実現。
彼女らのもくろみの第一歩は達成された。

法案成立後の平成12年2月。
上野千鶴子氏は松山市男女共同参画推進センターの
開館記念講演で発言した

  「男女共同参画基本法が可決された。
  しかも全会一致で。
  私はこのように思った。
  この男女共同参画基本法が
  どのようなものか知ってて通したのかよー、と」

  「これにより後で保守系オヤジどもを
  地団駄踏んで悔しがらせてやる」

  「信念をもったオヤジは死んでもらうだけ」

彼女の「ざまあみやがれ」という気持ちと
保守層に対する憎しみがハッキリと出ている。

また、代表的なジェンダーフリー論者の一人、
船橋邦子氏は雑誌の中で

  「男女共同参画基本法案は
  行政主導で制度化されてチャンスを得た。
  自治体職員や政治家はこれを非政治的なものだと
  思っていたのが幸運だった。
  市民は『お上』である役所が関与することには
  逆らわない役所至上主義がある。
  みんな彼らがぼんやりしてるときに、
  その隙をついた。」

と書いている。
とても正直な文章です。
これが彼女らの本音。


さて、この経緯を後から検証する我らは
溜息をつかざるをえない。
何故、こういう法律を通したのか?

まさに保守の油断だね。
1989年にベルリンの壁が崩壊し、
1991年にはソビエト連邦が地上から消え去った。
マルクス主義は息絶え、自由主義は勝利した。
しかし、マルクス主義のエッセンスは
「人権」と「平等」の理念のもと、
他の思想に姿を偽装し、静かに浸透の機会を窺っていた。

ここでヘルベルト・マルクーゼの言葉を紹介しよう。
彼はフランクフルト学派のマルクス主義者。

マルクーゼ

60年代の世界的な学生運動に多大な影響を与えた人物。
「共産革命のための武器はセックスだ。
それで社会の倫理を突き崩せ」と言い、
ジェンダーフリーにも影響を与えた。

彼は言う。

  「すでに確立された制度内に
  身を置いて働きかけよ」

  「対決というよりも
  むしろ徐々に侵入、潜入せよ」

これぞ現代左翼の常套手段。

暴力と血による下からの革命は挫折した。
自由主義国家における革命は
体制内に入り込み、体制そのものを洗脳することで
上からの「白色革命」を行う。
ジェンダーフリー論者は
明確にそれを意図し、実行に移した。

この法律のエッセンスと成立の経緯は
現在、大激論中の「人権擁護法案」を想起させる。
その内容の重大さに比べ、
ろくに国民的議論も経ぬまま、
突如、浮上してきた経緯。
そして、「人権」と「平等」の名のもと、
国民に思想統制を強いるやり口。
さらに法案を推進する人物が共通していること。
「男女共同参画法」と「人権擁護法」。
どちらも野中広務氏が背後にいる。

野中広務 素顔と軌跡:男女共同参画

氏は「男女共同参画法」成立時の官房長官であり、
この法案を強く押していた。
各方面に根回しし、圧力をかけ、
法案設立に尽力したことが知られている。


法が通れば、
その法の理念を地上に具現化すべく、
官僚組織が増設され、予算がつく。
組織と予算が確立されれば
官僚は組織目的達成のために動き始める

内閣府の中に男女共同参画局が設置され、
官僚とジェンダーフリーの論客が集められた。
大沢真理氏は男女共同参画会議・影響調査会の会長となった。
予算は、歴代内閣の目玉政策ということで
大盤振る舞いが行われ、
平成16年度には関連予算は9兆9千億円に達した。

国家財政が破綻しつつある中で、
この予算だけは特別扱いだった。
あれほど削る削らないでもめた防衛費は
半分の4兆8千億円に過ぎない。
日本の防衛費は大半が人件費が占めるため、
正面装備の額はわずかに約8100億円。

国防の要の戦闘機や護衛艦は削減され、
国民を毒する思想の流布に9兆円超が投じられる。
あまりの馬鹿馬鹿しさに言葉を失ってしまう。


さてさて、今回は長くなってしまったので
これを前編として、次回を後編とします。

次回は「男女共同参画基本法」制定後、
内閣府の中で男女共同参画会議が設置され、
ジェンダーフリー論者が委員として選ばれ、
他の中央官庁の施策に統制を強めていく様子と、
自治体に続々と「男女共同参画条例」が出来て、
地方でジェンダーーフリーが浸透していく過程を書きます。



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