鳥取県境港、北朝鮮有利の特区構想が却下。
2004年 12月 18日
もう一週間前のニュースになるけど、
12月8日、鳥取県の川上知事提出の特区構想が
国によって却下された。
特区の名前は「境港水産加工業振興特区」。
北朝鮮に対する経済制裁論議が盛り上がる中、
それに対する抜け道を開く特区構想だった。
その経緯を追っかけると・・・
来年3月から「一般船舶油濁賠償保障法」が施行される。
◇日本に入港する100トン以上のすべての船に適用
◇保険未加入の船舶は国土交通省が入港を禁止できる。
◇どうしても無保険船で入港したいなら、
責任限度額までの支払いを保証する担保契約を付けること。
*国土交通省:
油濁損害賠償保障法の一部を改正する法律案について
当初は、座礁した貨物船などが油事故を起こし、
賠償金も支払わないのは困るとして作ったもの。
ところが審議を経るうちに、
あれよあれよと内容が厳しくなり、
政治的な思惑がどんどん上乗せされて、
法が成立した時は、こんな感じになった↓
*改正油濁損賠法が成立 北朝鮮船の入港困難に
これによって、北朝鮮の船舶は90%以上が
入港は不可となる。
彼らの船舶は大半が保険などかけてないし、
かけようにも、北朝鮮船に保険をかけてくれるような
酔狂な保険屋など世界中に存在しない。
保険に関してまとめると以下になる。
◇日本入港の船舶は油漏れに関する保険をかけるべし!
by 国土交通省
◇でも、北朝鮮船の90%以上は保険未加入だよ。
どうしたらいいわけ?
◇保険をかけるには、
「船級」という格付けを貰わないといけない
◇船級を与えられるのは
英国法に基づいて認定された、
国際船級協会連合(IACS)の正会員または準会員のみ。
◇IACSの正会員または準会員のリスト内に、
韓国と中国はあるが北朝鮮はない。
◇大半の北朝鮮船は船舶構造などの規格に合致せず、
船級は与えられません。
◇もし、加盟国が他国に船級を恣意的に与えると、
協会から即日追放に。
最低でも50年は復帰できない。
◇というわけで、
やっぱり北朝鮮船の90%は入港不可です!
by 国土交通省
ってな、感じなんですね。
*拉致連絡板:
一般船舶油濁賠償保障法についてのお勉強
で、来年の3月からこれが施行されて、
北朝鮮は大打撃を受けるのは必至。
実質上の経済制裁。
これに困ったのが鳥取県境港市。
境港は北朝鮮からベニズワイガニ、貝などの
魚介類を輸入しており、
2003年の輸入額は28億5000万円。
これを加工して輸出することで、
この市の経済は成り立ってきた。
もともと境港は魚介類を自前で水揚げし、
加工していたのだが、
日本海の漁獲高が減少するとともに、
北朝鮮からの輸入に頼るようになった。
1992年5月に北朝鮮・元山市と友好都市協定を締結。
相互の訪問団派遣、民間企業の経済交流を始める。
次第に北朝鮮船の入港が活発となり、
2003年には年間409隻が入港、
京都の舞鶴港を抜いて全国一となった。
また、去年には
鳥取県知事と境港市長が揃って北朝鮮を訪問した。
境港にしてみれば、「油濁賠償保障法」の施行は
地場経済を壊滅させる大問題であり、
県と市はあの手この手の対応策を協議した。
*北朝鮮水産物安定確保へ 境港の水産業界
*境港の業者支援に前向き 県議会で知事
で、今年11月24日に国土交通省に特区申請。
名称は「境港水産加工業振興特区」。
*構造改革特区(6次)提案募集における
構想・プロジェクト概要
(7ページ目)
鳥取県境港市は
国内最大のベニズワイガニ水揚を誇る水産業の町。
しかし近年の漁獲減少に より現在では
外国より輸入したベニズワイガニを原料とした加工業が
地元産業で大きな位置を占めている。
2003年同港に輸入された原料は約7000トン、
加工による生産額は180億円に上 る。
改正油濁損害賠償保障法の成立により
100トン以上の船舶に対し
保障契約の締結が義務付けられる。
境港に入港する外国船の多くは
保険未加入の状態であるため、
入港禁止が実施され た場合に
地元産業の倒産など経済に与える影響は計り知れない。
こうした事態を回避するため、
境港においては保険加入義務を
500トン以上に引上げる特区を申請する。
境港に入港する外国船=北朝鮮船は、
500トン以下だったら保険を免除してくれと。
早い話が、境港だけは
「油濁賠償保障法」をザル法にしてくれと。
そして12月8日に国土交通省からの回答。
*検討要請に対する国土交通省からの回答
(40ページ目)
本規制は、わが国沿岸への座礁船の放置等により
油防除措置や船体撤去等の費用負担を
地方自治体が強いられることから、
地方自治体からの強い要望も受け、
本年4月に油濁損害賠償保障法を改正し、
来年3月より施行するものである。
放置座礁船として問題となる船舶は、
比較的小型のものが多く、
保険義務付けの 対象船舶を100トンから引き上げた場合、
座礁事故等によって被害を受ける地方自治体や
漁業者等に対する十分な保障が確保できないこととなる。
また仮に、義務付けトン数引き上げが
特定地域のみで実施されたとしても、
当該特定地域以外の場所において
対象船舶による座礁事故が発生する可能性があるため、
当該特定地域のみならずそれ以外の地域においても、
被害者保護が損なわれる結果となる。
このため提案された特区に拠る対応を行うことは
不可能である。
却下されました(笑)。
まあ、当たり前だよ。
これで申請が通ったらブチキレものですよ。
こうして境港の特区申請はかくしてかくなり、
却下されましたとさ。
それにしても鳥取県側も国土交通省も、
互いに一言も「北朝鮮」と言わないのが笑える。
官僚だね~。
こういう事象は
歴史上ではしばしば起きること。
通商は相互の繁栄と同時に、相互の癒着を生む。
つまり「利益共同体」となってしまう。
境港とて、北朝鮮が好きなわけじゃないでしょう。
でも、自分とこの経済のためには
背に腹をかえられない。
結果的に、相手の利害の代弁者となってしまう。
特に力関係でいくと弱者側はそうだよね。
事実、特定船舶入港禁止法案が
国会に提出された際には、
朝鮮総連幹部が境港の水産団体を訪れ
「何とか法案に反対できないか」との打診があったとのこと。
*電脳補完録:
北朝鮮の入港日本一 境港市 唯一の姉妹提携市に逆風
この境港と北朝鮮の関係を拡大したのが、
日本の経済界と中国の関係。
日本から多くの企業が中国に進出し、
貿易で荒稼ぎしている。
で、最近、経済界首脳が中国の意向を代弁し、
「靖国参拝は日中関係を損なう」などの発言が目立つ。
利害共同体と化したわけですな。
*娘通信♪:
安倍氏、媚中財界人を批判・・財界の正気はどこに?
通商の恐さはここなんだよね。
交易繁栄・通商増大は、
相手の利害に引っ張られることと裏腹の関係にある。
境港の例は一つの教訓ですな。
*ニュースの焦点:
高まる緊張感 境港にも 北朝鮮船の検査強化
*対北朝鮮貿易、昨年3割減 「経済制裁」発動前から萎縮
*ローカルニュース:
北朝鮮制裁の入港禁止法案 境港市に大打撃
*ローカルニュース:
境港の業者支援に前向き 県議会で知事
*ローカルニュース:
外貿船急増で職員数膨張 境港港湾合同庁舎
*境港市-市政懇話会の概要報告:
「境港市だけにはテポドンとかを打ち込まないように・・」
(ページの下の方)
*電脳補完録:北朝鮮船籍の港別入港状況